今月のトピック by 村本邦子

2014年3月 命の抵抗〜福島「希望の牧場」のこと

立命館大学国際平和ミュージアムで開催された「震災で消えた小さな命展」のオープニングイベントを手伝ったが、そこで上映されたドキュメンタリー「犬と猫と人間と2〜動物たちの大震災」に登場する「希望の牧場」のことが強く印象に残った。福島第一原発から半径20キロ圏内にあたる警戒区域に指定された浪江町で2011年7月に発足し、「原発事故の生き証人」として、被ばくした牛350頭余りを飼養している牧場である。政府は殺処分の方針を出したが、代表の吉沢正己さんを中心に動物たちの命をつなぎ、積極的な情報発信を続けている。(http://fukushima-farmsanctuary.blogzine.jp/

このドキュメンタリーは、あちこちで自主上映会が行われていて、5月にはDVDも発売される。(http://inunekoningen2.com/news/)。涙を流す牛や、見るも無残な動物たちの遺体が登場し、胸が締めつけられる場面が少なくないが、動物とのつき合い方や命の扱い方は、そのまま人間のあり方を表しているのだと思う。「なぜ、そこまで?」と問われ、吉沢さんは、「意地だね」と答える。牧場の維持は全国からの寄付と応援で成り立っているが、同時に、「もともと食用に生まれてきて、被爆して食べられなくなった牛を生かし続けるなんて、資源とエネルギーの無駄遣いだ。さっさと殺せ」といった批判が後を断たないという。命を経済的価値と置き換える思考は、原発と同じ論理であり、生き物の命を頂いて人間の命があることへの感謝とは別のものだ。「飼料が尽きた後はどうしますか?」という問いに、「そうだね、放つよ。ドドドドドーと街中に放たれて、おっかねぇぞぉ」という答え(表現は不正確だが)を聞きながら、「命の抵抗」という言葉が浮かんだ。

警戒区域のなかに牛たちと暮らしながら、命の抵抗をしている吉沢さんとはいったいどんな人なのだろうと関心を持った。吉沢さんの父親は満州開拓団の一員だった。満州開拓団が入植した時、日ソ中立条約を破ってソ連が参戦する情報をつかんだ関東軍は満州開拓団を見捨てて大陸から逃げ出した。「棄民」となった父親は何とか帰国し、日本で開墾を始め、その土地を売ったお金で牧場の土地を手に入れた。牧場は父の形見でもある。吉沢さんには今回の事が満州開拓団とだぶり、そんな国に従えるかと、殺処分反対・原発反対運動を始めたのだそうだ。なるほどと思った。私自身、動物たちの亡骸を見ながら、日中戦争を思い浮かべていた。

ほとんど報じられないが、反原発運動は今も活発に行われている。3月9日、国会議事堂周辺で3万人以上の大規模な反原発デモが展開され、3月15日、日比谷野外音楽堂には5500人の脱原発集会が開かれたそうだ。あちこちで根強い抵抗が繰り広げられていることを知ることは希望だ。小さくても継続できそうな何かを自分もと思う。今、考えているのは、ささやかな抵抗としての「命のキルト」である。ずいぶん前に、トラウマ・キルト(http://www.flcflc.com/corpo/essay/essay2003/09muramoto.html)のことを書いたが、祈りをつなげて形にするムーブメントだ。もう少し具体的にイメージできるようになったら呼びかけたい。